つぶやき

ペンキバック

ずっと使っていたバックに白いペンキみたいなものがベットリついていた。

その汚れに気づいたのが、出先だったので、慌てた。

汚れを隠しながら、精神科の診察室でソワソワしていた。

どこでついた汚れなのか、どうしてついたのか、まったく思い出せない。

こんなに広範囲に、しっかりついてしまった汚れだったら、もう落とせそうにないな。

汚れをこすってみたけれど、びくともしなかった。

捨てるしかない、捨てよう。

そう思った瞬間に、どこかほっとしている自分に気付いてしまった。

このバックは、私が高校生の時に買った。

家の近所のショッピングモールで、買った。

別段、気に入っていたわけじゃない。

当時、憧れていた、アパレル系の人たちがこぞってこんなバックを持っていたので、ダサかった私は無理やり手を伸ばした。

このバックを、私は持てば、瞬時に、あのアパレルの人々のように、素敵に、幸せになれる気がした。

だから、高校生の私にとっては少し高かったけれど、無理やり買った。

このバックを持ってから、私は素敵になれただろうか。

幸せになれただろうか。

そんなことを待合室でいつまでも考えていた。

このバックと過ごした5年の月日。

私は、未だに、あの日本当に欲しかった、アパレルのおしゃれな若者が持っている「幸せ」らしきものを手にできていないかもしれない。

インスタを見ては、彼らの華やかさに涙が溢れる。

私は、高校生の時から比べたら、そりゃ頑張った。

努力して努力して、血の滲むような努力をして、人からの「おしゃれだね!」という称賛の言葉を手に入れた時は…嬉しかった。

でも、私は素敵なんだろうか。

私は幸せなのだろうか。

このバックだけじゃない。

私は、物を買う時、天に祈るような気持ちで買う。

これさえ持っていれば。

これさえあれば。

あのキラキラした人たちに近づけるはず。

でも、それが叶った時があっただろうか。

ギュッと、汚れたくたびれたバックを抱き抱えながら、そんなことを考えていたら、なんだか自分が可哀想になってきてしまった。

このバックと早くお別れしよう。

可哀想な自分とも別れたい。

次のバックは、私が本当に好きなものを。

心から、欲しいものを。

私に似合うものを。

そういうものにしよう。

バックを抱き抱えながら、私は新しい自分に出会えるようで、いつの間にか、ワクワクしていた。

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